◆ 第1話 ──「このままじゃ、定年まで働き続けるのか?」
38歳、営業職の村井直人は、遅い昼食をとりながらスマホを眺めていた。
ニュースサイトの見出しが目に飛び込んでくる。
「不動産投資ローン、過去4年で1.5倍増加」
「個人投資家のFIRE事例が急増」
村井はコーヒーをひと口飲み、ため息をついた。
「年収は悪くない。でもこのままじゃ住宅ローンを払い続けて、定年まで働くんだよな…」
貯金はそこそこある。だけどインフレで預金の価値は目減りする。
子どもはいないが、家族を支える責任はある。
そして何より、もう少し早く“経済的自由”を手に入れたい。
その想いは日に日に強くなっていた。
「不動産投資か…俺にできるのかな?」
そんな時、同僚が教えてくれたのが地元の投資家向けセミナーだった。
次の週末、村井は会場のホテルに足を運んだ。
壇上では、不動産コンサルタントの男が話している。
「メガバンク、地方銀行、信用金庫──どこから借りるかで、あなたの未来のキャッシュフローは変わります」
村井は前のめりになった。話は具体的だ。
・メガバンクは金利が低いが、物件の質や立地に厳しい。
・地方銀行は地域性を重視し、多少築年が古くても評価されやすい。
・信用金庫は担当者次第で、積算評価を使って柔軟に融資してくれる。
コンサルタントは実例を交えて続ける。
「たとえば、都心の築浅RCマンション。ある投資家は1億円で購入し、メガバンクから金利1.2%・35年のフルローンを引きました。
一方、地方の築古木造アパートでも、信用金庫をうまく使えば、金利2%・20年の条件で回せます。
それぞれの銀行で見ているポイントが違うんです」
村井はノートを取りながら、頭の中でシミュレーションを始めていた。
「じゃあ、最初はメガバンクを狙って、次は地銀…?」
講演後、個別相談コーナーで村井は思い切って質問した。
「年収は700万、貯金は2000万ほどあります。都心のワンルーム投資から始めるのと、郊外の小規模アパートから始めるの、どちらがいいですか?」
担当者は地図を広げながら説明した。
「ワンルームは入居率が安定しますが、価格が高く、自己資金を多めに入れないとキャッシュフローが出にくい。
逆に郊外の小規模アパートは、家賃収入は増えますが、入居付けに工夫が必要で、管理も手間がかかります。
銀行選びで言えば、都心RCならメガバンク、郊外なら地銀や信金のほうが通りやすいですね。」
村井は頭の中で計算を始めた。
「都心RCなら1億でフルローン…月の返済はだいたい30万円ちょっとか。家賃収入が40万円なら、管理費や税金を引いても手残りが出そうだな。
でも郊外アパートなら、5000万円の物件を地銀で借りて、家賃収入が月25万円…ローン返済は15万円…こっちのほうが余力はありそうだ。」
頭の中で二つの道が見えてくる。
都心でブランドを重視するか、郊外で回転を重視するか。
セミナーからの帰り道、村井は手帳を開き、こんなメモを書き残した。
「1. 融資戦略を練る。
2. 銀行ごとの特徴を理解する。
3. まずは小さく始め、次を狙う。」
夜、家に帰ってから妻に話した。
「今までみたいに銀行を適当に選ぶんじゃなくて、戦略を立てるんだってさ。」
「あんた、ちゃんと勉強してるじゃないの。」
笑いながら、村井はPCを開いた。物件サイトを眺める目は、もうサラリーマンとしてのそれではなかった。
──こうして、38歳の村井直人の「経済的自由への計画」が静かに動き出した。
(つづく)
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