38歳が挑む不動産投資|経済的自由を目指す第3話|管理会社との対話と融資審査

資産運用

◆ 第3話 ──「管理会社との対話と融資の壁」

川口のアパートを見に行った翌週、村井直人はもう一度現地を訪れた。
前回の内見で気になった外壁と階段の補修について、管理会社と直接話をするためだ。

午前10時。管理会社「サンフィールド管理」の担当、ベテラン風の田辺さんが笑顔で迎えてくれた。
「この物件に興味を持たれているんですね。現場を一緒に見て回りましょう。」

二人で建物をぐるりと回る。外壁の塗装は薄くなっており、雨樋の一部に亀裂がある。階段の手すりもぐらつきがあった。

「ここはいつ頃塗装されたんですか?」と村井。
「ええ、築10年目に一度やっていますが、それ以来ですからね。あと2、3年以内に外壁全面の塗り替えをした方がいいでしょう。概算で150万円程度です。」

「階段の修繕は?」
「こちらは軽微なもので、20万円くらいで収まると思います。」

村井は手帳に数字を書き込んだ。
「なるほど…このコストをローン返済計画に織り込まないと。」

次に室内を確認する。1階の空室は日当たりも悪くない。壁紙は多少古びているが、クリーニングすればすぐに貸せそうだ。
田辺さんは言った。「このエリアはシングル需要が安定しています。1階でも、家賃を5000円下げるとすぐ埋まるでしょう。」

村井はうなずいた。実際にシミュレーションを更新してみると、満室時で毎月9万円残る計算が、1室空きでも6万円残るプランに変わる。
「リスクを見込んでも、まだ黒字だな。」

昼過ぎ、近くの喫茶店で一息つきながら、村井はスマホで信金の必要書類リストを確認した。

  • 住民票
  • 源泉徴収票
  • 銀行の残高証明
  • 物件の謄本・公図
  • 賃貸借契約書の写し

「けっこう揃えるものが多いな…でもやるしかない。」

翌日、勤務先の昼休みに法務局に走り、謄本と公図を取得。
夜はネットバンキングから残高証明を取り寄せた。こうして一つずつクリアしていく過程が、なぜか心地よかった。

そして1週間後。信金の面談の日がやってきた。村井はスーツを着て、用意した書類をファイルに入れて窓口へ向かう。

「村井様、お待ちしておりました。」
担当の女性は相変わらず落ち着いた笑顔だったが、その後ろに見慣れない男性がいた。
「こちら、融資審査部の佐川と申します。本日はよろしくお願いします。」

面談室に通され、書類を一通り確認された後、佐川が切り出した。

「今回の物件、利回りは悪くないのですが、築年数が20年を超えていますね。この点をどうお考えでしょう?」

村井はあらかじめ準備していた答えを口にした。
「はい、確かに20年を超えていますが、周辺の賃貸需要は高く、現状でもほぼ満室を維持しています。さらに外壁と階段の補修を予定しており、資産価値の維持にも配慮しています。」

佐川はメモを取りながら頷いた。
「修繕計画を具体的にお持ちなのは良いですね。見積書などは?」
村井は田辺さんからもらった概算見積書を差し出した。
「こちらが外壁塗装と階段修繕の見積もりです。」

佐川はじっくり目を通し、質問を重ねてきた。
「空室が1戸ありますが、入居促進策は?」
「家賃を5000円下げ、初期費用キャンペーンを実施するつもりです。管理会社と協議済みです。」

「なるほど。では、返済比率がこちらの基準を満たしているか、社内で最終審査を進めます。」

村井は深く息をついた。面談は1時間ほどで終わったが、緊張で汗ばんでいた。
駅へ向かう途中、頭の中で今日のやりとりを反芻する。
「築年数への質問、修繕計画の提出、空室対策…全部ちゃんと準備しておいてよかった。」

その夜、妻に報告した。
「どうだった?」
「たぶん大丈夫だと思う。ちゃんと答えられたし、あとは審査待ち。」
「すごいじゃない。あんた、やっぱり本気だね。」

一週間後、信金から電話が鳴った。

「審査が通りました。正式な契約手続きにお越しください。」

電話を切った村井は、しばらくその場で立ち尽くした。
「本当に…始まるんだ。」

数日後、契約書にサインをし、ついに村井は「家賃収入を生む大家」となった。
これからが本当の始まりだ。毎月のキャッシュフロー、修繕計画、入居率の管理…考えるべきことは山ほどある。

しかし、手帳の新しいページには、確かな進展が記されていた。

  • 毎月家賃収入36万円
  • ローン返済25万円
  • 管理・修繕積立2万円
  • 手残り 約9万円

「この数字を積み上げていけば、あと何年で会社を辞められるだろう?」
そんな計算をしながら、村井は次の物件の情報を調べ始めた。

次はどこで勝負するか。
メガバンクで都心物件を狙うか、別の地銀でエリアを広げるか。
キャッシュフローが生まれたことで、選択肢は確実に増えていた。

夜遅く、リビングでパソコンを閉じた村井は、静かにつぶやいた。

「これが…経済的自由への階段か。」

──第4話へつづく

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